2011年に同人誌専門の印刷会社の社長になった
2011年に叔父が経営する同人誌専門の印刷会社が倒産しました。目の前で親族の会社が倒産によってなくなるのは、衝撃でしかなかったです。その後、倒産した会社の事業を引き継ぐ受け皿として、私が社長として新会社を設立することなりました。事業は、これまでの同人誌印刷がメインです。印刷機は持たず製本工程の設備のみを導入して、印刷は協力会社へ依頼し製本は内製する形でスタートしました。
当時はデフレの真っただ中。同人誌印刷業界もネット受注による価格競争が激化していました。ここでは勝負できないだろうと思い、知り合いの印刷会社からの製本加工を受けようとしましたが、そんな簡単にはいきません。同人誌印刷も製本も、数年間にわたって苦戦が続きました。この頃は、BeBlock(当時の社名はCRM)でもWebマーケティングを強化し、新規事業を次々と立ち上げていたので、とにかく忙しい毎日でした。
2010年にメニューブックの達人の前身である「メニューカバー製作工房」、そして2011年には大判プリントの達人の前身である「大判プリント110」をリリースしました。3月には、東日本大震災があり、日本の景気もよくない状態でした。同人誌印刷も製本も苦戦が続く中、このまま従来の仕事を続けていても未来はない。何か新しい事業を生み出さなければならないと、強い危機感を持っていました。
2014年の夏、コミケに行ってみた

同人誌印刷の会社でも新しい事業を模索していました。まずは、同人誌印刷の祭典、コミックマーケットを見てみようと2014年の夏に、東京ビッグサイトに視察に行きました。私自身は同人系イベントには全く興味はありませんが、延べ来場客数が50万人を超える同人系では日本一のイベントということもあって、一度見ておこうと思ったのです。真夏の炎天下にもかかわらず、会場である東京ビッグサイトでは開場を待つ同人ファンでカオスの状態でした。私は関係者パスですんなりと会場入りできましたが、入場するだけでも何時間も並ぶイベントであることを、実際に会場に足を運んで初めて実感しました。

コミケのホームページでの発表によるとサークルといわれる出展者は約35,000ブースあり、とにかく自分にとっては信じられない世界が目の前に広がっていたのです。人気のサークルさんのブースには行列ができていたり、コスプレを楽しむ人も多くいました。私は東京ビッグサイトの中を回りながら、同人誌以外にもCDやステッカー、グッズなどが売られているのを知りました。そこで漠然と、参加しているサークルさんや参加者が買ってうれしい商品は何かと考えました。
誰に、なにを、どのように
会場の興奮が冷めぬまま、帰りの新幹線で誰に(ターゲット)、何を(商品)、どのように(売り方)を考えていました。「誰に」は、コミケに出展するサークルさんや参加者。「どのように」は、ネット通販でということは決まりました。あとは肝心な「なにを(商品)」です。それから、会場で売れていたアイテムや当時の流行っていたものを調査しはじめました。
この頃は、紙媒体を中心にした販売促進支援を生業としていましたので、どうしても紙から派生した商品を構想しがちです。例えば、同人誌の隣接領域にあるのは、紙のしおりやステッカーです。この領域は差別化が難しく、商品としての新しさもありません。そこで、紙を中心に考えることをいったん捨てました。自分たちが何を作れるかではなく、お客様が何を求めているのか。ここを出発点にして、改めて商品を探すことにしたのです。
すると、アクリルキーホルダーがグッズとして売られているのを思い出し、アイデア次第でいろんなアクリルグッズが作れると思いました。考えるのは簡単ですが、どんな設備でアクリルキーホルダーを作れるのかノウハウは全くありませんでした。それからアクリルへ印刷できるUVプリンターを調べてテストを繰り返していきました。
設備投資の失敗

散々テストした結果、UVインクジェットプリンターとレーザー加工機の導入を決めて、2015年7月に設備投資しました。そして、「大判プリントの達人」の新商品としてリリースしました。UVインクジェットプリンターでは、アクリルキーホルダーの受注が伸びない場合にそなえて、ロールタイプのメディアにも印字できる万能タイプのものを選択しました。ポスターやサイン系、アクリルにも印刷できる機械だったのです。今振り返ると結果的に、これが失敗でした。アクリルへの印刷で、思いどおりの品質を出すのが難しかったのです。正確に言うと、印刷できなくはないものの、調整にかなりの手間ひまがかかり、生産性が上がらない状態でした。一方で、アクリルキーホルダーの受注数はどんどん増えていきました。
受注が増えた大きな要因があります。それは、オリジナルのアクリルキーホルダーを1個から注文できるようにしたのです。この時、競合他社は最低注文数が30個や50個だったので、「1個からオーダー可能」というのが、ユーザーのニーズにマッチして小ロットの注文がどんどん増えていきました。
さらに、希望納期によって価格を変動させました。納期が長くても構わない人には、安く提供し、急いで欲しい人には割増にしたのです。BeBlockの「達人シリーズ」は当初から納期による価格変動が可能なシステムだったので、これが可能だったのも受注が増えた要因でした。設備投資という点では失敗でしたが、商品と売り方という点では、お客様のニーズを捉えることができていたのです。
2016年10月アクリルグッズの達人をリリース

増える受注件数をこなすために、アクリルグッズに特化したUVプリンターを2016年7月に導入しました。そしてこの頃、「大判プリントの達人」の一商品だったアクリルキーホルダーを専門サイトへ移行することを決めました。そして様々なアクリルグッズを商品化し、10月に「アクリルグッズの達人」をリリースしました。それからは、特設サイトに掲載されているとおり、新商品のリリースや新サービスの追加を続けてきました。たくさんのお客様にご利用いただきながら、「アクリルグッズの達人」は成長してきました。
「アクリルグッズの達人」が、この10年間のBeBlockの成長を支えてきたことは間違いありません。2014年の夏、東京ビッグサイトで開催されたコミケに足を運んでいなかったら、「アクリルグッズの達人」は誕生していなかったかもしれません。
振り返ってみると、最初から成功への道筋が見えていたわけではありません。現場に足を運び、お客様が何を求めているのかを考え、設備投資で失敗しながらも、試行錯誤を繰り返してきました。その積み重ねが、今の「アクリルグッズの達人」につながっています。
新規事業のヒントは、いつ、どこに転がっているかわかりません。ただ、待っているだけでは出会えないのも事実です。
自分たちの常識にとらわれず、現場に足を運び、考え、行動する。
10年前の挑戦を振り返りながら、これからも新しい事業を生み出し続けたいと思います。